Simon Freakley
New York
連載「CEOの綱渡りな旅」では、技術革新、多様なステークホルダーからのプレッシャー、マクロの経営環境など、CEOが直面する課題について短い記事を書き連ねていく。
第3回は、「フリーマネーからオペレーショナル・エクセレンスへ」
世界経済は2023年の多くの予想を上回り、2024年に順調なスタートを切ったようだ。中央銀行は、景気後退を回避しながらインフレを抑制するという、捉えどころのないソフトランディングを成し遂げようとしている。
金利は今年中に低下し始めると見込まれるが、中央銀行はインフレを確実に抑制するために金利を高い水準に維持する決意を示している。市場では高金利の長期化のムードが続いており、昨年の米国金利は10年ぶりの高水準を記録し、10年国債の利回りは16年ぶりに5%の閾値を超え、低格付けクレジットの利回りは2008年の金融危機以来のピークに達した。アリックスパートナーズが毎年発表しているディスラプション・インデックスでは、CEOが2024年に自社のビジネスが直面する最大の脅威として「金利」と「インフレ」を挙げている。
このような事業環境を考えれば、倒産が増加しているのは当然だ。昨年、米国の倒産件数は金融危機以来の水準となった。とはいえ、歴史を振り返ってみると、現在の資本コストは特別に高いわけではないことは認識しておくと良いだろう。いまこそ企業は10年間にわたるフリーマネー時代に萎縮した筋肉を鍛えるタイミングだ。これ以降で3つのポイントを紹介する。
まず、どの領域への投資が価値を生み出し、どの領域が価値を生み出さないのかを理解するために、経営の規律を厳格にする。資本コストが上昇する環境では、価値を生み出す投資は少なくなり、むしろ価値を生み出さない投資が増える。この違いをしっかりと把握することが大事だ。
つぎに、財務と経営の両方の観点を踏まえた事業計画を、流動性と運転資本の見通しとともに描く。多くの企業で不足しているのは、オペレーションの現実味である。さまざまなシナリオを描き、収益とキャッシュフローがどのような影響を受けるかを理解することで、将来の見通しが立ち、予期せぬサプライズを避けることができるだろう。
最後に、資本コストは高いが資本市場は依然として選択肢として捉える。価値創造を実現するためのオペレーションの解像度をあげて、実行可能な事業計画を立案し、最適な財務戦略と戦術を駆使することが、長期的な成功を確実にする唯一の方法だ。
第1回:「デジタル投資に取り残されていると不安を感じた時に」
第2回:「声の大きい批判者にアジェンダを決めさせない」