アリックスパートナーズ、「2023 年版グローバル自動車業界見通し」を発表

「徹底した顧客中心主義」で勢いを増す中国 OEM が業界のディスラプションを起こす可能性 エンジニアリング主導のアプローチを取る OEM は変革を迫られ

13 7月 2023

【2023 年 7 月 13 日】 グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨー ク、日本:東京都千代田区、代表:野田努)は、世界の自動車業界の展望レポート「2023 年版グローバル自動 車業界見通し」(以下、本レポート)を発表しました。ハイライトは下記の 5 点となります。

  • 2023 年の世界の自動車販売台数は前年比 5%増の 8,310 万台となる。その後、2024 年から 2027 年の間は年率 3%で成長するが、コロナ以前の水準を超えてプラス成長を記録するのは中国、南米、新興国。米国はコロナ以前の水準まで回復するが、日本と欧州はコロナ以前の水準以下で推移する。
  • 世界の自動車販売を占める EV(BEV+PHEV)の割合は 2027 年に 30%、2035 年に 61%まで拡大 すると予想される。地域別には、米国で 59%、中国は 66%、欧州は 82%と 5 割以上を占めるようにな る。日本でも EV 化は短期的には軽 EV 車のローンチ・補助金継続、中期的には ICE 規制や TCO 低 下を主なレバーに 2025 年に 8%、2030 年は 20%、2035 年は 39%まで進むとみている。
  • 日本では自動車販売台数は 2022 年を底に 2024 年まで回復基調を辿る見込みだが、長期的には人 口減少を背景に市場は縮小し、2024 年の約 500 万台から 2030 年までには 450 万台まで落ち込むと 予想される。
  • 中国では 2023 年に数十年ぶりに中国の自動車メーカー(OEM)が海外 OEM の販売台数を上回って 推移する。今後もこの勢いで伸長すると仮定すると、中国 OEM の事業モデルが欧米市場で通用する 可能性がある。
  • 中国 OEM との競争に打ち勝つためには、従来の OEM は最先端なテクノロジーを採用し、スピーディ ーに製品を市場に投入するとともに、顧客中心主義の見直しが必要である。しかし、これには今まで以 上に大きなリスクが伴う。

本レポートでは、中国においては政府主導の長期かつ大規模な EV 支援、EV の成長を見越した相次ぐ新規 参入、顧客が好むデザイン性や高度なテクノロジーの積極的な採用などを背景に、国内 OEM が加速的に 成長しており、今後は世界の業界構図を塗り替える可能性があることを指摘しています。現段階では、こうし た中国 OEM の勢いは中国外には及んでおらず、むしろ従来の OEM はテスラのイノベーションの脅威に注 視しています。アリックスパートナーズは、中国 OEM がきっかけとなって起こりうる未来のディスラプションに 対抗し、逆にチャンスを掴むためには、旧態依然の OEM はこれまでの業界アプローチを根本から変える必 要があるとみています。

また、パンデミック当時にあった価格決定力は失われつつあることが明らかとなっています。例えば、米国で の平均販売価格は生産の安定化、在庫の積み上がり、金利上昇などを背景に 2025 年までに 7%下落する と予想しています。また、世界の販売台数は 2023 年には前年比 5%増加し 2019 年の水準近くまで回復す ると予想していますが、欧州ではパンデミック以前の水準には戻りそうにありません。

アリックスパートナーズ自動車・製造業プラクティスのグローバル共同リーダーであるマーク・ウェイクフィール ドは次のように述べています。「パンデミックの影響は後退したかもしれませんが、自動車業界は既存の競争 構図やビジネスモデルを脅かす新たなテクノロジーや競争要因に早急に対処しなければならず、かつてない プレッシャーに晒されています。こうした状況に対応し、将来の顧客にアピールするためには、これまでの主 要製品の開発や製造についての考え方を見直すなど、企業は優先順位の思い切った見直しを行う必要があ ります。しかしながら、これは既存とのトレードオフを意味し、また市場投入までのスピードを新たな次元で高 めることとなり、これまで以上に大きなリスク許容を必要とするでしょう。」

「自社生産、あるいは他社との提携においても、『CASE』(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)技術 に注目すべきです。中国 OEM は、魅力的な価格帯で、従来の OEM よりも速いペースで CASE を自動車に 組み込むことに注力しています。従来の OEM が競争に打ち勝つためには、こうした新しい技術を中心に据 え、スタートアップ企業のようなリスクテイクのできるマインドセットでビジネスに取り組む必要があります。」

本レポートでは、自動車業界が注視すべき事象として以下を挙げています。

  • 内燃機関車(ICE)は急ピッチで衰退: ICE の販売台数は、米国では繰り越し需要によって今年 は 6%増加するものの、その後停滞し、2027 年までは毎年 4%減少すると予想される。結 果、EV 向け投資に仕向ける利益やキャッシュフローは短期的に圧迫されるとみている。
  • 中国 OEM が業界のペースメーカーになる: 中国では 2023 年に数十年ぶりに中国 OEM が 海外 OEM の販売を上回る(国内シェア 51%、うち 32%が EV)。中国メーカーは 2030 年に は市場の 65%を占め(うち、58%が EV)、2050 年に向けて年間 5,000 万台超の水準に向 かうと見込まれる。中国で勝ち残ったビジネスモデルが、グローバル市場で成功する雛形とな る可能性がある。
  • 自動車業界の環境は複雑さを増している: 米国の自動車業界は、2023 年も 3.5%の労働イ ンフレによって圧迫され、価格決定力の欠如により、世界の大手サプライヤー300 社の純負 債は前年比で 300 億ドル増加する。さらに、サプライヤーのインタレスト・カバレッジ・レシオは 18%まで低下しており、キャッシュを絞る必要がでている。同時に、世界の自動車メーカー大 手 25 社の純負債は減少する。これは、自動車メーカーが最高益を記録したために余剰資金 でリボルビング・ローンやその他の負債を返済したことによる影響。しかし、米国の自動車メー カーは、コロナの影響を受ける前と比べ、生産台数 1,000 台あたり 25%増の従業員を必要と しており、パンデミック以前のレベルにはまだ回復していない。

なお、2023 年以降の世界の自動車市場の見通しは以下の通りとなっています。

  • 欧州の販売台数は、前年比 6%増となるが、2027 年まではコロナ以前の水準をはるかに下 回って推移する。
  • 中国の販売台数は前年比 3%増となり、2050 年まではブレがあるものの総じて力強い成長 を遂げ 5,000 万台を超える。
  • 米国での販売台数は、長期的な労働ストライキがないと仮定して、前年比 10%増の 1,520 万台となる。しかし、購買力が長期的な成長を鈍化させ、パンデミック以前の水準以下にとど まる。
  • EV に搭載される半導体の量は多いが、半導体企業による割り当てと効率化により、自動車メ ーカー向け供給が増加する。2023 年は世界の自動車生産台数 8,500 万台までは生産可能 で、完全に供給制約が解消されるのは 2025 年になるとみている。
  • BEV は、2035 年までに世界の主要地域での販売台数の大半を占める。

また、本レポートでは、中国 EV メーカーが台頭し、グローバル市場においても大きな影響力になり、いずれ は自動車業界においてテスラに代わる競争目標になる可能性もあると指摘しています。

アリックスパートナーズのマネージング・ディレクターで自動車・製造業プラクティス日本チームリーダーである 鈴木智之は次のように述べています。「自動車業界はここ数年、テスラのイノベーションに注目してきました が、今こそ中国 EV メーカーの成功にも注目すべきです。これらの企業は、成熟しつつある消費者に対して、 新たなテクノロジー、魅力的なデザイン、デジタルを活用した顧客エンゲージメント、市場投入までのスピー ド、従来と異なる手頃な価格帯などの差別化した価値を提案しています。こうした将来のディスラプションを先 導しうる勢力を無視する企業は、どの国の企業であろうと自らを危険にさらしていると言えるでしょう。」

アリックスパートナーズは、今後、変革を迫られる旧来のアプローチとして以下を挙げています。

  • 旧来の「エンジニアリング主導型」: 真の顧客主導型になっておらず、製品開発プロセスから の脱却ができず、業界が長年蓄積した課題に挑戦することができない。結果として、今の顧客 が評価しない機能や装備を追求し、生産遅延や過剰支出を許す。
  • 慎重すぎる企業姿勢: 新たなテクノロジーの採用や市場投入のスピードに欠ける。
  • 新規参入組が懸念する必要のない足かせ: 仲介業者(新規参入組は消費者直接販売モデ ルを採用)や ICE 向け既存の製造能力の高いサンクコストなどが存在する。

こうした旧来的なアプローチは、乗り心地や NVH(騒音、振動、ハーシュネスの最小化)といった車両特性を 追及するあまり起こり得るものと考えられます。加えて、製品開発と調達に対する旧来のアプローチは、柔軟 性に欠け、市場への投入を遅らせ、最適とは言えない設計を特徴とする自動車づくりに留まらせています。

中国 EV メーカーは海外メーカーと比較して、高度なテクノロジーに精通した新しい顧客が求める自動車を、 購入可能な価格帯で提供するとともに、自動車の販売と所有のプロセスにおいてデジタルを活用した顧客体 験とエンゲージメントを実現しています。例えば、中国で最も販売台数の多い中価格帯セグメントにおいて、 中国 EV メーカーの ADAS(先進運転支援システム)機能の普及率は海外メーカーよりも 11%ポイント高い 値(68%対 57%)を示しています。また、中国 EV メーカーはモデルチェンジのスピードが速く、ICE が主体で ある海外メーカーの市場投入年数が 4.2 年であるのに対し、中国 EV メーカーはわずか 1.3 年となっていま す

アリックスパートナーズについて

1981 年設立。ニューヨークに本社を構える結果重視型のグローバルコンサルティング会社。企業再生案件や緊 急性が高く複雑な課題の解決支援を強みとしている。民間企業に加え、法律事務所、投資銀行、プライベートエ クイティなど多岐にわたるクライアントを持つ。世界で約 30 都市に事務所を展開。日本オフィスの設立は 2005 年。日本語ウェブサイトは /jp/